AMY
 






なんといっても彼女がニューイヤーから騒いでいた1999年の今は7月だもの。
マリアが今週のGIGをすっぽかして粉ばっか食べてるのもわかる。
200人の客と4人のメンバーからばっくれて、さっきからグラッドストーンへ飲みに行こうとうるさい。
無視してペディキュアを塗り続けていると、とうとうそのへんにあった本やグラスやブーツが宙を飛んで壁に体当たりしはじめ た。
灰皿が窓から外に飛んでいった。
だけど私にはわかっている。酒瓶クスリに関係あるものをマリアはどんなにぶちキレた時にも絶対に捨てたりしない。
灰皿はよく放り投げるけれど、彼女はたばこを吸わないのだ。

「これをさせてよ。完成させて。あともうすこしなのよ。グラッドストーンならもう少し遅くにいくと楽しいわよ。もちろんつきあうわよ。」
私の化粧箱の中身も大きな音を立てて飛び交いはじめたので、そう言ったのだ。

「あたしはさぁ、ライブやってる場合じゃないのよ。もう7月なのよ。もうあたしの頭ん中は"End on the world"で、もうなんにも人前にでて歌いたいことなんてないの。」
マリアは夕方起きてきて、粉のカクテルをつくって、それからよく喋っていた。

「1999年の7月に世界が終わるなんて、一体誰に聞いたのよ」
マリアがこれ以上、部屋の中のものを壊さないようにあたしはなんとかこの奇妙なテーマの会話を成功させようとしてみた。
だいたい夏が始まる前に世界が終わるだなんて、私のあの新しい水着はどうしてくれるのよ。

「どこかの頭のおかしな作家がそう書いてた。アメリカ人よ。たぶんいい加減な本よ。誰もスペルの間違った古代フランス語の詩の意味なんてわかりゃしないわ」

電話が鳴った。
いや、電話なら今日は一日中鳴っている。
サウンドチェックで3時にはハコに入ってなくちゃならなかったのだ。マリアは。

「どちらにしても、」と、電話の存在など最初からこの部屋にはなかったというふうにマリアは続けた。

「どちらにしても、それが7月じゃないとしてもよ、あたしたちがみんないつかは死ぬってことがわかっちゃったら、もうなにもすることなんてないのよ。もうギターを弾いてわざわざ曲にするコトもないし、歌にしなくちゃなんないようなコトなんて、実はひとつもないのよ。そう思わない?エイミー」

マリアはそのあとしばらく叫んでた。
言葉ではなく、ギターもなく、メロディにもなっちゃなかったけど、それは確かに”歌”に聞こえた。 

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