tropic of cancer
人は友人がなくても生きていける。
恋愛がなくても、
必要可欠とされている金すらなくても生きていけるように。
人は「街」で生きていける----それを僕は発見したんだ。
----ただ悲哀と苦悩だけを食ってでも。
人は自分が狂人であり、
憑かれていると知りながら街を歩く。
ここでは、
すべての境界は消え、世界は狂える屠殺場として
あらわれてくる。
事実、世界はそうなんだ。
僕の人間の世界は消滅した。
僕はこの世界でまったくの孤独だ。
友人をもつ代わりに、僕は街をもった。
街は、
僕にむかって、
人間の悲惨、渇望、後悔、失敗、
浪費された努力などがまじりあった、あの悲しい、
痛々しい言葉で話しかけてきたんだ。 |