空・河口湖・傷
青空が嫌いだった。
だいたい空を見上げることも怖かったから、晴れた日の青空なんて
ぼくにとっては恐怖だった。
なんかい空を見上げても こたえは見つからなかったし 幼いぼくが
父親の性的悪戯から逃げることもできなかった。
泣いてたあの日も晴れた空がひろがっていた。
「まりあ、いいこだね、じっとしていなさい。お父さんはまりあが大好きなんだよ。」
ただ ぼくのうえに、父のあたまのうえに、きれいな色でひろがっていただけだった。
あれから13年たって ようやくぼくは 彼と一緒なら
空を見上げることができるようになっていた。
ふたりで デッキチェアに寝そべって 空をみて 「きれいね」と
口にしたりできるようになっていた。
だけどほんとうに
彼と見上げる空なら大好きだった。
ぼくが 怖がっていたのは たぶん 自分のこころだろう。
ずっと 時の中の無言の目撃者だった空が
あの日のぼくのこころを大きく写し出してしまっているようで
ぼくはそれを見つめることが怖かった。
いつも叱られてばかりでいやだと思った。
父に好かれたいと思った。
気持悪いけど 怖いけど じっと我慢していれば 殴られないんだと感じとった。
そんな自分は ずるくて きたなくて 悪い子だと思った。
愛情のために ぎゅっと目を閉じた8才の売春婦がいたんだと
ずっと
自分を責めつづけていたんだ。