02-29-00 | 火曜日/お母さん |
また屋根裏で目が覚めた。
昼間からゴウさんが電話をくれて、DNA鑑定のことについていろいろと連絡をくれた。 費用のこと、鑑定にかかる日数のこと、それから昨日病院で採取したアレの保存方法。 まりあが自分で、病院に連絡をして、保存方法を指定してお願いしなくちゃいけなかった。 電話にでた先生は、はいはいわかりました。と意外とこころよくうけあってくれた。 ハレタちゃんも電話をくれた。同じinternet chatにいた女のコで、親身になって、ドメスティックバイオレンスという微妙で重大な問題の解決方法を探していてくれていた。 僕は、お父さんの奥さんに打ち明けて、家族で話しあって、それでお父さんが正直に認めて、解決するならそれでもいいのかもしれない、とその時はまだ思っていた。 ゴウさんに聞いたDNA鑑定の話によると、早めに鑑定にだしたほうがよさそうなので、それなら、もう今日中にでも奥さんに電話をして話したほうがよさそうだった。
1階に降りて、キッチンで残り物を探して、お昼を食べて、それからお父さんの奥さんに電話をした。
話しだしたら、いっきに言えたと思う。
お父さんの奥さんチヒロさんは、だけど、しーんとして、聞いているのか聞いていないのか、わからないような感じだった。 あなた、だけど、それでもお父さんと会ってたんでしょう? その時は、まだわかってもらおうとしてた。
そう、それで、一昨日の日曜日にお父さんが帰ったあと、翌日病院に行くまでに、あなたは、他の男性と性交渉はなかったの? 最初、何が言いたいのかわからなかった。
この人が他人のまりあを信じなくて、きっと当然なんだろう。それでも、この人に助けを求めようとしたのがこれが2度目だった僕は、本当に驚いた。世間知らずのバカな僕は悲しいとさえ少し思ったかもしれない。 おばさん、それは鑑定すれば、お父さんのものだと確実にわかるものなんですよ。
お父さんの奥さんチヒロさんのケイタイが鳴って、「お父さんから電話だから、いったん切ります」と言われて、それで屋根裏部屋の陽のあたるところにすわって、膝をかかえて考えていた。 立場がじゃまして、人はうまく話しあえない。
チヒロさんから、電話かかってこないな、と思っていたら、お父さんから電話がきた。
金?金ってなに?なにを言ってるの?お父さん。
お父さん、なにを言ってるの?お金を払えば娘を犯していいと思ってるの?いい加減に自分の汚い部分を認めなよ。まりあはね、ずっと苦しかったの、お父さんはまりあがなにを言ってもわかってくれなかったでしょう、お父さんが怖かったよ、普通のお父さんがいて欲しいとずっと思ってたよ、それだけだったんだよ。ひとりで、苦しんで、とうとう、もう耐えられなくなって、人に相談したら、、人に相談するのだって、実のお父さんのことだもの、すごい勇気がいったんだよ、それで、まわりの人が助けてくれて、いろいろ助言をもらって、それで、おばさんや弟にも言ったほうがいいと思って、それで、助けてもらおうと思って話したんだよ。
それでも、信じてくれとお父さんが、哀れっぽい声を使って、何度も言うと、まりあは、その言葉がほんとうにほんとうだったらと思って、泣きそうになる。
お父さん、もう切るよ。
お前に、全部バラされたから、お父さんはもう家に帰れない。このままひとりでどっか行く、お父さん、もう消えるから。
別に消えてくれても全然かまわないと思った。 今使ってるケイタイも捨てる、会社も辞める、一人でどこかに行く、そればかり繰返してるから、それを引き止める理由もないので、その電話もすぐ切った。 チヒロさんからは、いつまでたっても電話がこないので、こちらから、かけてみた。
このおばさんもダメだなと思った。
電話を切ってから、そう言えばよかったなって頭に浮かんだけど、なんだか、やっと話した人が、わかってくれなかったことが悲しくて、だけどそういうものかもしれないって、ああそうかって、気がつくのに時間がかかっていて、なんにも言えなかった。
またケイタイが鳴った。お父さんだ。
電話を切って、泣いてたら、たぶん、1階まで降りないで、2階のふきぬけのとこで心配して様子をみてたヨウタがあがってきた。 まりあ、聞いて
屋根裏にある空が見える窓から、鳥が3羽、小さな三角形をつくって飛んでるのが見えた。
ハヤシライスに口をつけられないまま空を見ていたら、チヒロさんから電話がきた。
ハ??????
呆れた。呆れすぎてすぐには言葉がでてこなかったぐらいに。
それから、お父さんが、そういう事実はなかったって言ってるのよね、そして、まりあちゃんのことを、あのコはちょっと変わったコだから、ってまるで変人扱いしてるような感じだったのよね。
もう、あいつに正直な言葉とか、自分がしてきた恐ろしい事にたいして謝罪する気持ちだとか、そういうものを求めても無駄なんじゃないかと思ってきた。人間じゃないんだ、あいつ。
その話が聞けて、お父さんがどういうやつかよくわかったのでよかったです。
もしもし、
お母さんはめちゃくちゃに泣き出して、泣き出して、何度も、お母さん、落ち着いて、まだ続きがあるのって言って、ようやく最後まで、今日までのことを聞いてもらった。
僕が遠回しにお父さんが変だったよと言った時、お母さんも遠回しにお父さんがむかしから、おかしいって事を遠回しに言ったんだろう。それで、なにも起こらず今日まできちゃったんだ。
詳しく日記に書き記すのはやめようと思う。だけど、口をつぐむお母さんに、僕が何度も頼んで頼んで聞き出したことは、恐るべきお父さんの過去だった。お父さんが、襲いかかる相手は、いろいろだった。子供から、少女から、大人まで。別れたくて、恐ろしくて逃げようとすると、どこまでも追いかけてきて、刃物を持って追いかけてこられたこともあるという。「本当に恐ろしい男なのよ」10代で結婚したお母さんは、逃げようとしてお父さんに山奥に連れていかれて監禁された事もあるという。
ようやく逃げ出して、やっとみんな幸せに暮らしていると思っていたのに。
一晩中、お父さんからの電話が鳴っていた。
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02-28-00 | monday/病院 |
昨日のこと、
お父さんの様子が変で、なんだかあせってまりあにどうしても会いたがっていたこと、 お父さんが泣いたりしてたこと、 internet chatで知り合ったゴウさん達は、「まりあちゃん、そこで絶対にお父さんを信用しちゃだめだ」と何度も言っていた。 「まりあちゃんがユウくんと接触を持ったこと、二人に電話が通じなかったことで、自分の立場が危うくなったんじゃないかと不安になって、そのために、まりあちゃんにお父さんのことをバラされないために、お父さんはまりあちゃんの同情をひこうとしているだけなんだよ。今、まりあちゃんの気持ちさえコントロールしておけば、お父さんは安全だから、そのために必死なんだ。まりあちゃん、日曜日、お父さんがどんなこと言ってきても信用しちゃだめだよ」「お父さんがまりあちゃんの口封じのために何をするかわからないよ。絶対にお父さんを信じちゃだめだ」
----そして、よけいに傷ついた日曜日。お父さんは、コトが済んだらそそくさとズボンをはいて、何事もなかったかのように振舞った。 そんなふうに、お父さんを信じた自分が悔しくて悲しくて、心配して何度も何度も電話くれたゴウさん達の電話にでられなかった。
心配してくれてるゴウさん達に連絡をしなくちゃと思っていたけど、こんなことになって、もう見捨てられちゃうんじゃないかと思って、なかなか電話できなかった。でもユウくんと電話で話した後に、もしかしたらゴウさん達とユウくんが会って話したりしてくれたら、なにかもっと方法が見つかるのかもしれないという考えが浮かんできて、昨日の夜遅くになってゴウさん達に会った同じinternet chatにログインしてみた。 >>ネットで会った人間をそんなに信用しちゃだめだよ。
残されていたそんなログをみた驚きで倒れそうになるほどだった。 僕は一体誰にむかって話をしていたんだろう。
>>どうもありがとうございました。もうこんな話したりしないから、信じるとか信じないとか考えてくれなくてもいいです。
>>まりあちゃん!待って!違うんだ!
まりあは、internetで会ったみんなに励ましてもらった事で、すごく心強くなれていたのに、あんなログのかけらを読んで、すぐゴウさん達を諦めたりしてごめんねって思って、言った。
日付けがもう月曜日に変わろうとしていた。 どうしてもっと、信じると決めた人を、なにがあっても信じ続けることが出来ないんだろう。人を信じるという大胆な勇気。お父さんとのことで、そんなこともいつのまにかなくしていたのかもしれない。じぶんにくやしい。
ゴウさん達にお父さんのことを話した。
人を信じたいという自分の気持ちを、逆に、勇気をだして断ち切らなくちゃいけない時もあるんだろう。悲しいことだ。 お父さんの言葉を信じてしまったまりあをゴウさん達は責めなかった。
モトちゃんは、明け方になっても警察に電話をかけてくれたりして、どう対処するべきかいろいろと調べてくれた。ゴウさんは、今日、お昼に会って、一緒に病院に行こうと言った。
病院?検査?誰かにからだを調べられるの?想像しただけで怖くて、そんなこと出来ないだろうと思った。まりあのからだに人が近付くことを想像しただけでも今はいやだ。 それにお父さんの体液って?お父さんが帰った後、もうまりあ、からだじゅうお風呂で洗ったもの。もうお父さんの指紋のかけらも残ってないよ。 とにかく、明日、病院に行ってみようよ。無理強いはしないけど、検査だけでもしておこうよ。 なにがまりあに起こっているのか、頭をはっきりさせてくれたのは、internetで出会ったかつての見知らぬ人達。ひとりだけで考えてると、目の前の事実から逃げ出してしまって、なにも考えたくなくなって、迷路の袋小路にはいってしまう。
朝、お父さんから電話があった。(ポラロイドカメラじゃないほうの)カメラをまりあの部屋に忘れていってないか?確かに部屋にあったから、あるよと言った。
お昼に、ゴウさんとモトちゃんに会った。二人とも朝まで、まりあのことをどうしたらいいのか、いろいろ調べてくれてたから、二人とも徹夜で来てくれた。 ねぇ、モトちゃんもつらい目にあってた。ゴウさんも耐えらんないようなことがあった。それでも、自分の中にある、少し残ってる力で、まりあを助けようとしてくれてるんだね。 「マリアさん」看護婦さんに名前を呼ばれて、ひとりで、診察室にはいった。診察室の中まで付き添っていこうか?という話にもなったけど、ひとりでも大丈夫と言った。
2、3回、悲鳴をあげて、こわいこわいこわいって泣いちゃって、深呼吸するように言われて、すーはーすーはーすーはーって、先生がまた近付いてきて、また、すいません、すいません、こわいんです、すーはーすーはーすーはー、痛い、痛い、痛い、痛い、すーはーすーはー、そうしたら、先生が「顕微鏡もってきて」と言って、看護婦さんが「はい、もういいですよ」と言って、僕は、泣いていたから、ティシューをもらって、涙をふきながら診察室の先生の前にまた座った。
「確かにありますね、昨日確かに、そういうことがあったのいうのはこれでわかります。だけどDNA鑑定のための体液の保存方法というのがここではわからないんですよ」
モトちゃんも、ゴウさんも徹夜で来て、待合室で長々と待って、疲れてるだろうなって気になった。
駅のトイレに行って口を濯いで、それから車に戻って、ユウくんが西口にでてくるまでじっとしていた。泣いてたと思われないか、鏡をみた。涙の跡をごしごしこすった。 お姉ちゃん!ごめん、今走ってる!もう西口にでるとこ!あ、横断歩道みえてきたよ。お姉ちゃんどこ?
変だなと思って、車の中からガラスを叩いたり、手をふってみたりしてみる。タクシーがどんどんやってきて、そんなに長く停車してられない。 しばらくたって、ようやくユウくんが気がついて、にこにこしながら車に近付いてきた。こんな出来事はいつだってなにかを象徴しているようでひどく悲しい気持ちになる。 六本木のgrand blueで、ユウくんと食事をしながら、今日、病院に連れて行ってもらったことを話した。ユウくんが、このことをどう受け止めてるのか、まだまりあには、つかめないような気がした。それか、ユウくん自身が、この事実をまだ受け止められてないような印象。
今日は9時20分までに帰らないといけないんだけど、一度戻って、もしも抜け出してこられたら、まだ一緒にいたいと言う。
疲れていたから、半ばユウくんが抜けだせなかったらいいと思っていた。だけど、飯倉で高速を降りて、ひとりで少し飲んでから帰ろうと思ってバーの前に車をとめたところで、ケイタイが鳴った。
しょうがないな、と思って、だけど、こんなに一緒にいたがる弟が可愛いなとも思って、すぐまた首都高にのった。 「お父さんのことがなかったら、ぜんぜん関係ない話とかして、いっぱい遊べるのにね、共通の悩みがこんなひどいことだなんてね。」
ロイのお店に行って、ロイに弟を紹介した。
2時過ぎにヨウタが電話をかけてきて、他の店で友達と飲んでるからおいでよと言うから、それをきっかけに、そろそろ帰ろうと切り出して、3時にユウくんをタクシーにのせた。 ユウくんに、まりあが無理して笑ってることがわからなくてもしかたのないことだと思った。
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02-27-00 | 日曜日 |
朝10時くらいにヨウタの家の屋根裏部屋で目がさめて、ケイタイの着信履歴をみたら、お父さんが、あれから一晩中まりあに電話をかけ続けていたのがわかった。
1時、2時、3時、4時、6時、9時30分。全部お父さんからの着信履歴だった。 寝てないのかな、それなら、今頃は、いい加減眠たくなって、今日は、一日寝ていてくれたらいい。 車で、自分の部屋に帰る途中、一度ケイタイが鳴った。お父さんから。それが11時半。運転中だったから、出なかった。
部屋に帰ってきて、誰もいなくて不安になる。
14時半、お父さんが、部屋にきた。
それから、もうどんな気合いも、気力もはいらなくなって、
いつものようにアルコールを飲みはじめたお父さんをみてびくびくしていたのは僕だ。
自我っていうのか、自分っていう存在が、手を放した風船みたいに、すぅーっと飛んで消えていくような感じ。さようならさようなら、この時間、まりあ、現在、さようなら、お父さん、さようなら、 お父さんが背中から近付いてきた時に、ユウくんのケイタイに発信してみた。
お父さんは、きっとまりあが、逃げ出しそうな気配を察知した。
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02-26-00 | 土曜日/弟ユウくん |
午後になってもユウくんはこないから、もしかしたらお父さんが、電話をして「まりあは会いたくないって言っていたぞ」とか言ったんじゃないかとか考えちゃう。
昨日、ゴウさんとモトちゃんが話してくれたことを頭の中で、整理する。 怖がることはない。自分が悪いんだってあきらめることはない。悪いことを娘にし続けてきたのはお父さんのほう。 そうはっきり整理すると勇気がでてくる。 お姉ちゃん、遅くなってごめんね。16時半にユウくんが、来た。
いいコ。こんないいコっているんだ。お父さんのことをすごく尊敬してるって話す。なんにも知らないコ。
ユウくんの笑顔が何度か曇りそうになる、その度に話題を変えてみようとする。でもうまくいかない。いつどうやって言い出そう。
お姉ちゃん、、正直いって、お父さんのこと好き?
死んでくれたらいいと思ってる。
ユウくん、いい?それじゃあ真剣に聞いてくれる?
ユウくんはまりあの目を見たり、うつむいたりして、考えこんでいた。 最初、お姉ちゃんが、話しはじめた時、テーブルをひっくり返そうかと思ったよ。
だけど、一度考えさせて。 ユウくんは、すごく動揺していたし、きっとこんなこと受け止めきれない様子だった。
話してくれてよかったよ。
まりあとユウくんがいる間、何度も何度も何度もお父さんから電話がはいった。ユウくんのケイタイに。
夕方にはお父さんに会ってるはずだったけど、ユウくんが、4時過ぎに来たから、ユウくんと一緒に食事をして、そのあと、知り合いのバーにいって、友達に弟を紹介したりしていた。弟ができるっていうのは、なんだかいいなと思った。
酔っぱらって寝ちゃって、目がさめてかけてきたのかな。このまま酔いつぶれて朝まで寝てくれて、明日もずっと寝てくれてたらいいな。 23時、30分後、また電話。今度は泣いてる。
弟に話すことが出来て、自分の気持も少し強くなったのかな、なんて思った。なんだか、お父さんが泣いたり、あせってたりしていて、いつもと違うし、平気だった。 バーを出て、今日の緊張から、本当に、今日はゆっくり休もうと思って、部屋にむかった。 1時にまたお父さんから電話があった。
ぞっとした。いつものお父さんの話し方に戻っていたから。 この声を聞いてこわくなってこわくなってなってこわくなって、また自分が消えそうになっていくように思う。さようなら、さようなら、まりあ、誰?おとうさん?さようなら、消えそうになる。
でも、昨日はずいぶんみんなに励ましてもらったから、それでも、まだ用事があって、明日空いてるかどうかわからないと、明日の約束はしなかったはず。 お父さん、それじゃあ一晩中起きて、電話待ってるから、明日会えるかどうか教えて、お父さんは寂しくて眠れないんだ。
部屋に帰るのをやめた。ヨウタんとこの屋根裏で寝かせてもらった。ヨウタのお母さんが起きていて、挨拶をした。 弟と会ったこと、話したこと、だけど結局どうにもならないんじゃないかという考えが浮かんできてこわくなる。会ったばかりなんだし。
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02-25-00 | 金曜日/ゴウさんとモトちゃん |
今日の朝になって、このあいだの日曜日、初めて会った弟から電話がかかってきた。
「明日、お姉さんに会いに行きたいんだけどいい?このあいだ一緒に撮った写真があるでしょう?それも渡したいし」 弟ユウくんが、なんだか僕と会えたことをすごく喜んでいて、親しくしたいんだろうなっていうのが伝わってきた。 僕の心の中には、だけど、まだ、あんな素直そうな笑顔をまともに見れないわだかまりがある。 なんにも知らずに、あの腐った親父を尊敬して育ったユウくん。なにか悲しくなって日曜に会った時は、泣きそうになるのを何度もこらえた。 夜はお父さんと会わなくちゃいけないかもしれないから、と言うと、昼間行くからと言ってきった。 六本木のお店で会った初対面のゴウさんは、きちんとした話し方をする青年で、モトちゃんは、少しお姉さんで、よく考えてから、だけどはっきりとした言葉を話す人だった。
自分に今なにが起こっているのか、多重人格障害を引き起こしたのはそもそもなにが原因だったのか、このまま続いていくことでなにが犠牲になるのか、お父さんを可哀想に思ってしまうこと、逃げられないことは、まりあが狂ってるんじゃないこと、あのお父さんがどれだけおかしなことを娘にし続けているのかということ、 初めて聞く客観的な言葉、はっきり事実をdescribeする言葉、 もう迷わないように、ひとりで考えこんで、もう怖がらないように、おかしな考えが頭に入り込んでこないように、まりあは、真剣に、二人の言葉に耳を傾けて、頭にいっぱいいれていこうとした。 「とにかく、身近な人で誰かに知ってもらわないとはじまらない」
弟、弟、きゅうにあらわれた弟、なにか変わるかもしれない。 夜中、お父さんから電話。
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02-24-00 | internet chat |
このとまらない吐き気。このからだの中に流れてるこの血が気持ち悪い。
その時は自虐的という気持ちだったんだと思う。虐待をうけたコトのある人達がいるinternet
chatにはいって、父親のことを吐き出すように、この胸にずっとつかえてる吐き気を洗うように、お父さんのことをタイプした。
なのに、結果は、思った通りじゃなくて、
傷ついたことのある人間は、傷ついている人の痛みがわかるっていうのはもしかすると本当なんだろうか。 最初は、おどろいた。
そうか、それであの時もあの時も、ずっと苦しかったんだ。そうか、こんなことが自分に起こっていたんだ。 「土曜日になる前に、」ということで、金曜日、六本木まで来てくれて、会うことになった。
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02-23-00 | |
地図にはないあの場所へ行こう
曲り角もわからないけれど 君の手と僕の手をつないで それだけでもう平気だよ もうすぐきっと聞いてくれる誰か、みんなにつくったあの曲を、歌ってた。ひとりで。くりかえし。 うつぶせに寝てると、自分の心臓の音が耳についてうるさくて、落ちつかなくて
胸が胃がしぼられるように痛くなって道ばたに吐いてしまう。
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02-22-00 | |
02-21-00 | |
昨日は、ん、昨日だっけ、一昨日? 明け方帰ってきて、部屋にめずらしく誰もいなかったから、ひとりになりたくなくて、友達の家に行ってそれで、かなしくてかなしくて、くやしくて、死にたくて殺したくて、どうしようもなくって、すぐにクスリのカクテルをつくって、ここにこの場所に、このどうしても僕が生きている世界から、離れた。
僕はずっとわめき、泣き散らして、親父が死んで欲しいって、繰返して泣き続けてた。 娘さんはボニートですね。そうなんです、このコは子供の頃からこんなボニートな顔してたんですよ。 僕はそこで少しぞっとしたけど、その時はまだお父さんの事を信じていた。だってお父さんの従姉妹に会わせてくれるって約束で会ったのだし、普通に向かい合って食事をしているだけだし。 うまれて初めて会った弟。 ポルトガル語の会話 優しく僕を「娘」だと紹介するお父さん 部屋まで車で送ってくれと言うお父さん いつだって信じていたいお父さん 誰もいなくなった後、スラックスを脱ぎ始めるお父さん いいこだから、隣に座りなさいというお父さん ポケットに入れてるナイフにいつも手をのばせない僕 殺したいお父さん、可哀想なお父さん、気が狂ってるお父さん、8歳の時から気が狂ってしまった僕 死んで欲しい。親父、親父関わるものすべてなくなって欲しい なんであいつが生きてるんだろう。どうして僕はあいつの娘なんだろう。どうしてなんにも知らない弟が、目をあわせない僕をそれでも慕ってきて、なにがかわるっていうんだろう。 この世界で窒息して、僕らは顔を真っ青にして、はいつくばってる。死にたいのか生きたいのかもわからないんだ。痛みさえいつかは麻痺していくんだ。それならもうギターをならして僕を正気に戻すのはやめて欲しい。ナイフを握る力だけを持てたらいいんだ。僕らに本当に必要なことは音楽でもない、もうなぐさめの言葉でもない、ねじまがった親子という絆の名のもとに僕が流す悲しい涙でもない、あいつの腹に深く突き刺すナイフを握りしめる力だけが必要なんだ。 お願いします。先生、先生、嵐士、僕をなおそうとなんてしないで。 僕が消えてしまった後にいた人が誰だったのか聞かれてもわかりません。僕はまた子供の時と同じように、頭から白いシーツを被ったみたいに周りが真っ白になって、なんにも見えなくなって消えてしまったんです。ミクだったらもう一度、人を刺すことだってできるでしょう。僕はもう治療はいいよ。このままで、お父さんが、近くにいて、治療なんて出来ないよ。そう思う。僕はだって本当に、あいつを殺してしまいたい。今ミクに何度も話しかけてる。今はどうしようもできないんだ。先生。 ああ、ちくしょう。こんな涙だってもったいないくらいだ。 悲しむ価値なんてないんだ。あんなやつに。 そうだ。もうあおおおあうああああああああああああああああああああああ |
02-20-00 | 日曜日 |
02-19-00 | 土曜日 |
お父さんからの電話。
「アロー」の声で、少しびくっとする。 二人で会う約束じゃなかったから嬉しかった。 ブラジルの従兄と会うから一緒に食事をしないか、従兄はすばらしい奴で会えばきっとためになるだろう、というようなことを早口なポルトガル語でたぶん、お父さんは言っていた。 二人で会うんじゃないんだ。お父さんの部屋からは離れた場所で待ち合わせだった。 嬉しかった。 |
02-18-00 | |
ギター弾いて、弾いて、曲をかいた。 |
02-17-00 | だから、ゆったじゃん。パンクバンドですよって。 |
「そ、そ、そんなことをしたら、け、け、けいさちゅをよびますよ!」
小学生のおどし文句じゃないんだからさ。 まりあに害がないからって、メンバーになめた態度とられて、まりあが黙ってるわけないじゃん。 大島には、友達とか仲間って感覚がないんだろう。僕らそれぞれに、ばらばらなことを話して、僕らが自分さえよければって、納得すると思ったんだろうか。 結局、大島が自分でよんだ警察がきて、僕は事情を聞かれて、なんだ、このコの言ってることは筋が通ってるし、自分が責任感じて、ここまで来たっていうのはえらいねーなんて、言われるし、そんなことはいいから、なにより、メンバの金をもって逃げてる?あの態度?なんだよそれ!?って気持ちでいっぱいだった。
あんな支離滅裂で、嘘ばかり言って、逃げ回ってて、さらには自分でよんだ警察、よんだはいいけど、事情も話せなくて隠れてるようなあんな情けないやつはじめて見た。 僕らの心の中にあるものは、誰にも奪えやしないんだ。 |
02-16-00 | |
02-15-00 | |
正しい生き方もないだろう。なにが答えかもないだろう。だけど誰かを傷つけたくないだろう。
自分は実はとても幸せなんじゃないかって思うんだって話したら、ヨウタなんかは、「よかった・・・」ってゆくっりため息するし、部屋にいる友達も、「それっていいことじゃん」って言う。 自分が幸せなんじゃないかって考えが止まらない。なんだか止まらない。ここ最近ずっとそう。 問題は山程ある、むかつくやつもいる、毎週、医者に呼ばれるし、お金がないし、今日のごはんは我慢しようなんて言ってる日もある。だけど、まわりには友達がいて、好きな人もいっぱいまわりにいて、それがすごく大切で、それだけでなんだか自分はとても幸せなんじゃないかなって、その考えが止まらない。 どうしよう。だけど、それを、つまり、はっきりいって、びびってる。 あらためて自分の環境が幸か不幸かなんて考えたことなかったのに。ふと、あれ?なんだか幸せなんじゃないか。って思いはじめてしまったら、もうそれが止まらなくなっちゃった。 ああこわいよ。
でもやっぱり、自分はなんだか幸せなんじゃないかという考えが止まらない。どうしよう。こわいよ。
喧嘩もよくするし、トラブル抱えてやってくる友達も絶えない。リコが恋人と別れたら朝までジンにつきあわなくちゃなんないし、誰かさんのせいで夜中に起きて車で遠くまで飛ばさなくちゃなんない時もある。
「友情は目に見えないもの。自分のことしか考えない人間には一生縁のない宝物だ」 |
02-14-00 | バレンタインデイ |
誰にもまだあげたことないバレンタインのチョコレートだけど、今まで2回、チョコを用意したことはあって。
一度は、まだ子供の時、ユウコちゃんがチョコを選びに行くのをつきあって、そしたら、女の子達がいっぱいいて真剣にチョコを選んでて、なんだかまりあもまねしたくなって、ユウコちゃんと一緒にまりあも買った。それで、それを、翌日のバレンタインデイに、ユウコちゃんは、買ったチョコレートを好きなコの家のポストにいれて、まりあのチョコはユウコちゃんと一緒に食べた。「返事くるといいねー」なんて言いながら、公園で2月14日。 2度目にチョコを買った時のことは、ちゃんと思い出して書けるかな。とぎれとぎれなんだよね。 あげようかな、好きなのかな、と思って、でもラッピングされてリボンのついたチョコレート買うのも恥ずかしくて、ホールを抜け出して、ツアー先で知らない街だったけど、コンビニ探して、ふつうのチョコレート買ってきて、知らんぷりしてそっと楽屋に戻って、「トイレ行ってきた」とかうそゆって、ああ、どうしようかな、ほんとに好きな人じゃないとあげたくないし、でも好きなのかもしれないし、こんなにまりあを好きでいてくれる人だから、まりあだって同じくらい好きな気持ちを返したいとは思う、、でも、、とかいろいろ考えてて、ああ、やっぱり、テーブルの上に誰かの差し入れみたいにぽんって置いておいて、たまたま食べたら、それであげたって事にしよう。はい、なんていって渡すの恥ずかしいし、やっぱりあげるならちゃんとしたチョコレート用意しておけばよかった。 でもそのあと、ユリに頭蹴られて、どうなったんだっけ。 夜、ホテルに戻って、シャワーのところで、そっと確かめたら、まだまりあのバッグにはいったままになってた。ああ、あげなくてよかったのかな、好きかどうか迷ってるままあげるなんてダメだからね。そういえば、ユウコちゃんは返事がもらえたのかなって考えてた2月14日。 今年はなにをしていたのかというと、からだがみっつにわかれてしまったような気分で、なんにもできないでいました。
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02-13-00 | |
日本語聞きたくない。
から、今日は日記も書けません。 |
02-12-00 | |
02-11-00 | 「お前はなんでそういう熱いつきあいしか出来ないんだよ」byとびー |
また喧嘩しちゃった。
腕痛くなったけど、まりあも蹴ったし、頭殴ったし、おあいこだ。 それで、夕方には抱きあって泣いた。 友達とは。 |
02-10-00 | |
02-09-00 | |
テレビが大嫌いなんだけど。
それはもしかしたら子供の頃から、テレビ禁止で育ったせいもあるかもしれないけど。 いや、でもお母さんはもう近くにいなくて、いつ、いつまでテレビみていようが自由な環境にあった時にだって、テレビのスイッチをつけて一通りみてみたら、やっぱり好きになれなかった。病院のデイルームではいつもテレビがつきっぱなしだったけど、なかなか近寄らなかった。なにがしたいんだろう、テレビって。それが感想。子供の頃から、テレビを見せてもらえなかったことに感謝したい。 隣の部屋に誰かいる時は、誰かがテレビつけたりするから、その音が聞こえてきても、ちょっと我慢するか、ドアをどっちも閉めて音がなるべく届かないようにしていたんだけど、なんだか今日、それが耐えられなくなって、文句を言った。 カメラのレンズにむかってしゃべる人間、うるさい音楽、あれを買えこれを買えとうるさいコマーシャル。
この部屋は昼間は太陽の陽射しで、やたらと明るい。夜は誰も電気をつけたがらないから、真っ暗。
3月からリハにはいって、ええと、それまでにwarehouse版をつくって、それからライブ。 悩み相談室をした。
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02-08-00 | |
みんなでいろいろ話した。
「誰がそこに立っていて口をあけて話しているのだろう」という感覚がまだ少し残っていたけれど、「いつだって僕の感情は想いを越えて先へと飛んでいく」から、曲のこと、録音のこと、スタジオのこと、あれこれ、自分で考え終わる前に、勝手に頭の中で組み立てられて、それで勝手にからだが動いて、走り回ってた。 ST.JOHN'S WORTは、3週間経ったからそろそろ効果がでてくると思う。でもすでにいい気分。PROZACみたいに心臓どきどきして苦しくならないし、いいと思う。
自分がやな目にあうのもやだけど、メンバーになめた態度とる奴がいたら、そのほうがもっともっとむかつくよね。
僕に見える世界はすでに死んでいて、
演説台の陰で政治家は、民を「家畜」と呼び、その家畜達はすっかり死んでしまっていて、その腐った世界の上に金のつまったコンクリートが積み上げられている。
目の前の飯のために主人の靴の底だって舐めるだろう。皮を剥がれて吊るされる直前まで明日の飯のことを考えているだろう。 |
02-07-00 | |
風邪で死亡。倒れてたらB.Tが病院に連れて行ってくれた。 |
02-06-00 | 日曜日 |
02-05-00 | 土曜日 |
02-04-00 | 金曜日 |
02-03-00 | 木曜日 |
だけど、僕らはいつか死ぬんだよ?僕らはみんな死ぬんだよ?お父さんが死んだって、まりあだっていつか死ぬんだよ?お父さんが毎週会いに来たって、どうせいつかみんな死ぬんだよ?よかったことも、いやだったことも、なんにもなくなるんだよ。僕たちはみんな死ぬんだ死ぬんだ死ぬんだ死ぬんだ。
一日でいろんな人に会った。バンドのこと、とびーには、ライブも出来るようにするし、スタジオも探すし、まりあが全部整理するから待ってな!ってゆっちゃったから、いろいろ飛び回って、帰ってきて、ギターをひきひき考え事を吹き飛ばして、寝ます。 |
02-02-00 | |
ベッドの中でこうしてへんな姿勢でノートに日記を書いてると、左手が痛くなってきて、それで右手でも書いてみたりして、なんだ、両手で書けるじゃない。へたな字。
お父さんから一日何回も電話がある。
ゆうや君にもらったゆうや君DEMO、八ヶ岳で聞いたんだけど、感動した!!あんな顔して、純粋なんじゃないかと思った。ねぇ、でも、みんな、そうだよね?純粋な部分を守りたくて音楽にハートをゆだねるんだよね。 明日は、とびーとか、みんなに電話すること。忘れないで。 |
02-01-00 | |
八ヶ岳で、買い物にふもとまで運転して行った時に、i-modeでまりあのとこの掲示板をチェックしてみたら、なんて人はdelicateで傷つきやすく、なんてせつないんだろうと思うようなことがあったんだ。
一泊だけして東京に帰ってきたんだけど、それまで、なんだか胸が痛かった。 知らない人達、顔を知らない人達、運転してる時なんかにradioから流れてきた曲に似てるね。だけどあのコ達はもっと近くにいて、なぜならまりあと同じように絶望しながら生きていて、それでそんなことですごく、見知らぬ人達のことをだいじに思った。もうこれ以上、涙が増えたり、悲しんでもらいたくない。 なんだかんだ、ギターを弾きながら、どうやってバンドを動かしていこうかとか、真面目に考えて、考えて考えて考え事ばかりしていた。
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